Norimi Ohashi

「見えない不安」で可能性を狭めない D&I推進室を立ち上げ結婚・出産後もキャリアを積める環境を構築

ライフステージの変化でキャリアの幅を狭めたくない

大学では、教育学部に在籍していました。社会心理や消費者心理を学んだことがきっかけでマーケティングに興味をもち就職活動することに。地元の名古屋にも大手企業がある中、上京を決意しました。当時は、地元で就職する友達も多く「なんでわざわざ東京に?」「女の子なんだから実家の近くにいたほうが良くない?」と言われたこともありましたね(笑)。「なぜ女性だからといって、自分の思い描いているキャリアを諦めなければならないの?」と疑問を抱き始めたのもその頃からでした。 そんなとき、シェリル・サンドバーグの「LEAN IN」という本を読んだんです。そのなかに書かれていた「見えない赤ちゃんを抱えていないか」という文章に衝撃を受けました。想定されるライフステージの変化で、キャリアの選択肢を狭めるのではなく、目指す道を突き進もうと決意しました。
就職活動は、若手のうちから裁量をもって活躍できるベンチャー企業を軸にみていました。将来子どもを産んで復帰しても会社から必要とされる人材であり続けたい。30代手前で活躍のピークがほしいと考えていたんです。 ソウルドアウトの説明会や社員面談では、「志をもって挑戦する人をきちんと評価する」と話してくれ、価値観が合うと思いました。それに、デジタルマーケティングで中堅・中小企業を支援していく企業理念にも共感できたため、迷うことなく入社を決めました。

強い女性しか残れないようでは、女性のキャリアはないに等しい

入社当時は、同期や営業職には女性社員もたくさんいました。でも、当時の環境では働き方が合わない方もいて、壁を超えられずにだんだんと辞めていきました。気付けば私を含め、いわゆる心身ともに強い女性社員しかいない状態になっていたんです。 私も最初からうまくいっていたわけではなく、仕事で失敗することも多かったです。ただ、とにかく仕事が単純に楽しかった。でも、周りの女性社員がいなくなっていくのを目の当たりにして、「あれ、営業部に女性のキャリアってあるんだっけ」と思ったんですよね。入社後3、4年目のころでした。

見えない不安を払拭したい。仲間と共にD&Iの取り組みを開始

結婚を機にパートナーのいる愛知の営業所に異動。その頃、研修で外部講師から受けたD&I(※)を教わったことが、自社に推進室を立ち上げたきっかけです。 研修を受け、「LEAN IN」の文章を思い出しました。結婚後、周囲から「早く帰ったほうがいいのでは」と気遣われたり、「旦那さんのご飯を作らないと」「ちゃんと家事をしているの?」と聞かれたりすることがあり、心が穏やかじゃなくなった経験もしていたんですよね(笑)。でも、子どもを授かる前からタイミングを気にしてブレーキをかけてしまうのはもったいない。しっかり働ける環境をつくって、見えない不安を払拭したい。そんな想いから、研修を一緒に受けた仲間とD&Iを推進する取り組みを始めたんです。
まずは、入社1〜3年目の若手社員に定量定性アンケートやインタビューを実施しました。有志で始めた取り組みでありがちなのは、形にできずに不平不満の温床になってしまったり、中心メンバー自身が産休に入って頓挫してしまったりするケースです。 仲間内の取り組みで終わらせず、会社全体のものにするためにやったのは、初期から人事に共有して進めること。人事と連携することで、提案までのプロセスがスムーズになるようにしました。実際に、役員の方が「やっていくべきだ」と共感してくれて、当時の代表に提言しようと後押ししてくれたため、D&I推進室として進めていける環境を整えられました。これまでの仕事で人事系商材が多く、人事の方と親しい関係性を築けていたのも功を奏したなと思います。 ※ダイバーシティ&インクルージョンの略。多様なバックグラウンドを受け入れ、個々人の能力が発揮できるような環境を作ること。
実際に、2022年1月にD&I推進室を設立した時の公式リリースがこちら: https://www.sold-out.co.jp/news/topic_20220113

自己開示と周囲の力を頼ることで、産後もキャリアを諦めない

実際に私も妊娠、出産、育休を経てプランナー職(ストラテジックプランナー)に復職しました。プライベートとキャリアを実現させるためにまず大切なのは、自己開示だと思っています。これは上司や仲間だけでなく、パートナーに対してもですね。
私の場合は、結婚前からライフイベントに沿ったキャリアについて周囲の人と共有してきました。家庭と仕事の両立って連携が必要なんです。だから、パートナーにも出産時には、育休を取ってほしいことを伝えていますし、上司とプライベートの話もします。 結婚を機に、愛知異動を可能にしてくれたのも、ライフイベントに併せて逆算してチャンスを与えてくれた上司のおかげだと思っています。背景を知ってもらえていることが仕事を続ける上で心強さにつながることもあると思います。
上司には、「産後も今までと変わらずチャンスをください」とも伝えていました。周りの先輩パパママから「復職後は赤ちゃんが体調を崩すから思うように仕事ができないよ」とか、子どもを持つ女性に対して持たれるバイアスの勉強もしていたこともあり、不安でいっぱいだったんですよね(笑)起こり得る問題すべてを想像することは不可能で、自分のマインドの変化も予測不能でした。
でも、自分の知らないところで「ママになったから難しいだろう」と挑戦する機会ごとなくなるのは嫌だったんです。ですから、「打診はしてほしい」「断ろうとしたら、ひとまずその理由を聞いてほしい」「トライできるのに、子どもを理由に断ろうとしていたら説得してほしい」とお願いしました。「子どもがいるせいで挑戦できない」と思う自分になりたくなかったんです。 復職後に意識しているのは、初めから諦めず、できる理由を探して挑むこと。ありがたいことに、仕事のチャンスをたくさんいただいているので家庭も含めた調整にてんてこまいです(笑)。無理かなと思った1泊2日の東京出張も、復職後のタイミングで整備が進んでいた行政が提供する制度を利用することで、実現できました。ただ、子どもの体調や家族の都合によって出張を断念するときだってあります。その時は、オンラインで参加できないかなど打診する。会社や外部、パートナーを頼りながら実現できる方法を模索する。一人で抱え込まないで連携することが大切かなと思いますね。

子どもが小学生になるまでに、迷いの中で見つける新たな働き方

大学時代からキャリアマップを描いてきましたが、今は少し迷いがあります。いずれ「小1の壁」がきたらどうなるんだろう、どんな問題が起こるんだろうというのが見えていなくて。子どもの夏休み期間は、自分も夏休みを取って全力で遊ぶのも一案かもしれないと思っています。 新卒入社してから約10年、育休復帰後に価値観が大きく変わりました。以前は、心身ともに健康でフルタイムで働くことが当然だと思っていましたが、子どもの事情で思うように働けないこともあります。さまざまな事情を抱えた人たちが、能力を活かしながら協力し、目標達成に向けて行動している。組織は、働く人を支えるための環境を整備しながら社会は成り立っているのだと実感してます。今後、自分の中で優先すべきものが変わったり、どうしようもない事情が出てきたりすることもあると思いますが、周りと協力しながら、道を探していきたいです。 ※所属・役職は、2024年8月時点のものになります。